平成19年度改訂版(新指針)では、前項に示したとおり、ポンプ実揚程の算定における貯水タンク内基準水位を「ポンプ停止水位」から「ポンプ起動水位」に変更したため、ポンプ停止時の最大実揚程でも排水可能となるポンプを選定する必要があります。
 
 この排水可能か否かの確認(締切運転の確認)は、従来は損失抵抗曲線の作図など煩雑なものでしたが、新指針では直線だけの簡易な確認方法を採用しました。

 締切運転の確認(PPT)
 締切運転の確認(PDF)
 
締切運転の確認の必要性
 
 ポンプ起動水位を基準水位とするポンプ施設では、ポンプ起動水位で設計対象汚水量以上のポンプ吐出量としており、ポンプ運転により貯水タンク内の水位は徐々に低下していきますが、水位の低下に伴って吐出先との水位差が大きくなり、最終的には、ポンプ停止水位まで水位が低下し、このときの吐出先との水位差が最大実揚程となります。
 
 圧送ポンプ施設に用いられる水中汚水汚物用ポンプや遠心式グラインダポンプでは、ポンプの揚程が高くなると吐出量が低下していき、さらに揚程が高くなると吐出量が0"ゼロ"の状態(締切状態)となってしまいます。
 
 このため、ポンプ施設のポンプ最大実揚程時でも選定したポンプの性能曲線の運転可能範囲内(下限側)にあることを確認(これを「締切運転の確認」という)する必要があります。
※「締切運転の確認」での締切運転と、吐出量が0"ゼロ"の締切状態とは違うので注意する。
 
 ポンプ最大実揚程時のポンプ吐出量は、ポンプ運転可能範囲にあればよく、設計対象汚水量以上とする必要はありません。また、このときの吐出量の値を求める必要もありません。
 
 締切運転となる場合は、1ランク出力の大きなポンプ(より高い揚程まで吐出可能なポンプ)を選定して、再度締切運転の確認を行います。
 
 同様に、容積式グラインダポンプでは、ポンプの揚程が高くなると負荷が増加していき、さらに揚程が高くなると過負荷運転状態となってしまうため、水中汚水汚物用ポンプや遠心式グラインダポンプと同様の確認が必要となります。
 
従来の締切運転の確認について
 
 従来の締切運転の確認は、以下の手順で行っていました。
 
@
 
 ポンプ設計仕様点(計画全揚程・計画吐出量)を基に選定したポンプ性能曲線を用意する。
 
A
 
 ポンプ計画実揚程を基に損失抵抗曲線(ポンプ吐出量を変化させて損失水頭を求めた点を通るスムーズな曲線)を描く。
 損失抵抗曲線とポンプ性能曲線が交わった点がポンプ計画実揚程におけるポンプ運転点となる。
 
B
 
 ポンプ計画実揚程に水位変動幅(HWLとLWLの水位差)を加算した揚程(最大実揚程)を求め、Aで描いた損失抵抗曲線を平行移動する。
 
C
 
 Bで描いた損失抵抗曲線がポンプ性能曲線と交われば、ポンプ最大実揚程時にも締切運転とならないことが確認できる。
 ポンプ性能曲線はポンプ運転可能範囲も示しており、性能曲線を下限側に延長したりして、損失抵抗曲線との交点を強引に求めることはできない。
 
 ここで、従来の締切運転の確認には、次のような課題がありました。
 
@
 
 損失抵抗曲線を描く際のポンプ吐出量を変化させ求める損失水頭は、締切運転の確認のためにあらためて算出する必要がある。
 
A
 
 損失抵抗曲線をスムーズな曲線で描くためには特殊な定規(カーブ定規など)が必要となる。
 
B
 
 圧力管路の途中に管路最高点があるポンプ施設では、ポンプ吐出量を変化させて損失水頭を求める際に、吐出量が少ない時のポンプ実揚程は吐出側基準水位が管路最高点となり、吐出量が多い時には吐出側基準水位が吐出口管頂高と切り替わる場合があります。
 
 このような場合は、吐出側基準水位を管路最高点としたポンプ実揚程を基にした損失抵抗曲線と、吐出口管頂高としたポンプ実揚程を基にした損失抵抗曲線の2種類を描く必要があります。
 
B
 
 損失抵抗曲線を描く際に、ポンプ全揚程の算出式にある「その他損失水頭」(1.0〜1.5m)の扱いが曖昧となってしまう。
 
 損失水頭は、ポンプ吐出量が変化すると値が変わりますが、その他損失水頭の実用値は、ポンプ吐出量が変化しても同じ値となり、損失抵抗曲線として違和感が生じてしまう。
簡易な締切運転の確認について
 
 簡易な締切運転の確認は、以下の手順で行います。
 
@
 
 ポンプ設計仕様点(計画全揚程・計画吐出量)を基に選定したポンプ性能曲線を用意します。
 
A
 
 ポンプ計画吐出量を通る垂直線を引きます。
 
B
 
 ポンプ計画全揚程を通る水平線を引きます。
 
C
 
 ポンプ計画実揚程に水位変動幅(HWLとLWLの水位差)を加算した揚程(最大実揚程)を求め、Bで描いた水平線を平行移動します。
 
D
 
 Aで描いた垂直線がポンプ性能曲線と交わる点(A点)があり、かつ、Cで描いた水平線がポンプ性能曲線と交わる点(B点)があれば、ポンプ最大実揚程時のポンプ運転点はA点とB点との間に存在するため、ポンプ最大実揚程時にも締切運転とならないことが確認できます。
 
 ここで、簡易な締切運転の確認方法の特徴を示すと、
 
@
 
 直線を引くための値は、簡易な締切運転の確認を行う前の設計で、すべて算出されており、あらためて算出するものは無い。
 
A
 
 描写はすべて直線のため、定規のみで描くことができる。
 
B
 
 圧力管路の途中に管路最高点があるポンプ施設でも、ポンプ計画全揚程と計画吐出量から検討するため、複雑な計算は不要となる。
 正確な運転点はわからないが、ポンプ性能曲線内の一定範囲内に存在することが判り、締切運転とならないことが確認できれば十分です。
 
B
 
 簡易な締切運転の確認方法では、ポンプ計画吐出量より求めた管路の摩擦損失水頭の値を、その他損失水頭の実用値と同様にポンプ吐出量が変化しても同じ値として扱うことで非常に簡易な確認方法を実現しました。
 
 なお、簡易な締切運転の確認では、ポンプ性能曲線と垂直線との交点(A点)と、水平線との交点(B点)との2つを確認する必要があります。
 
@
 
 ポンプ設計仕様点に対して、ポンプ性能曲線の余裕が少ない場合はB点が小水量側となり、余裕が多い場合はA点が小水量側となります。
 
A
 
 ポンプ設計仕様点に対して、水位変動幅が小さい場合はA点が小水量側となり、大きい場合はB点が小水量側となります。

 本文は、平成19年度農業集落排水(管路技術)研修会(平成19年7月31日)での講習内容を基に作成した。
作成日:平成20年03月31日
(社)日本産業機械工業会 排水用水中ポンプシステム委員会

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